【実感記録】夜のおひとりさま

その日、私は一人で居酒屋にいた。

夜飲み、なんて、かれこれ何年ぶりか。

 

本当は、用事が済めば早々に帰るつもりだった。

でも、ゆっくりしておいでよ、と電話の向こうで夫が言ってくれた。

 

入ったのは駅直結の居酒屋。

 

座面の高いスツール、バンダナを頭に巻いた若い店員さん、焼き鳥を焼く煙の臭い、

何もかもが久しぶりで感慨深い。

仕事に出ているから、ランチを外食するのはよくあるけど、

昼と夜で店の雰囲気は大きく違う。

 

焼き鳥のセットとビール、サラダを注文する。

あー、こういうメニュー、久しぶり・・・!

家での食事には、必ずごはんをつけるから。

 

待っている間、歓喜のあまり、体が震えだす。

武者震いか?

 

ビールとお通しがやってくる。

そうよね、お通しがあるのよね!

いちいち新鮮な喜びに頬がゆるむ。

店員さんにも無意味に愛想よくしてしまう。

まだ酔ってないぞ。たしか。

 

さ、まずは一口、ビールを流し込む。

 

う、、、

 

う、、、、、、、

 

う、ま、いーーーーーー!!!!!

 

おいしさのあまり、脳がスパークしそうだ。

まぶたの裏に火花が散る。

ビールって、こんなにおいしかったっけ?

次々でてくるサラダも、焼き鳥も、しょっぱくて、香ばしくて、おいしい。

ザ・居酒屋の味に感激する。

お酒を飲むこと自体が久しぶりだからか、すぐ酔っ払いそうだ。

あー気持ちいい・・・。

ばくばく食べてぐいぐい飲んで、別のビールを注文する。

 

おひとりさまって、寂しくないのかな、と思っていた。

とんでもない。

この感動を分かち合える相手なんていない。

1人で噛みしめることこそが贅沢だ。

 

店にいたのは1時間そこそこだった。

でも、独身のとき週末ごとに参加し、終電で帰宅していた飲み会。

あれよりずっとずっとずっと楽しかった。

濃密だった。

 

電車に乗って、今度こそ帰るよ、と連絡する。

いつもと同じ駅で降りる。

でも、保育園には寄らない。電気が消えている。

 

ふふふ、と笑いがこぼれて、夜空に溶けていった。