【読書感想文】Red(島本理生)

 

Red (中公文庫)

Red (中公文庫)

 

かなりひっかかりをおぼえる小説だった。

官能小説の姿を借りた、現代日本の夫婦における問題提起に思える。

 

ヒロイン・塔子は夫・真とのセックスレスが原因で、元カレ・鞍田と不倫再燃…

あらすじにはそう書いてあるが、実際のところ、この夫婦の問題はセックスだけではない。

根っこにあるのは夫婦の心が通じ合っていない、ということ。まず、相性の不和、それに重なるコミュニケーションレスである。

 

(1)相性の不和について
 

そもそも塔子は、真に人間的な魅力を感じていない。塔子の目線からは、真の魅力が全く伝わらない。条件的に、結婚に向いている相手だと理性的に判断して結婚したのだ。

これがそもそもまずいのではないか。


一緒にいて、会話や食事が楽しい、心地いい、触れ合いたい、俗に言う”相性のいい相手”。そういう間柄じゃないと、生活を共にすることは苦痛だ。プライベートゾーンを共有するのだから。

 

シンプルで明らかなことのはずだが、なぜか結婚において、この事は軽視されがちな気がする。目に見えないものだからだろうか。違和感や不満を感じても、我慢すれば、なかったことにできると思うのだろうか。


もちろん、生活を共にするのだから、その他の条件も大事だ。

年齢。収入。実家。

しかし、目に見える条件というのは誰もが客観的に捉えることができる。そこに問題があれば、夫婦間での課題共有も比較的容易だ。

でも、相性はちがう。自分の体と脳しか知らないことだ。

それは本人にとっては確かな真実だが、第三者には全く知りえない。

だからこそ、人は、自分の心が訴える真実に真摯に向き合わなればならない。

 

(2)コミュニケーションレスについて


夫の方は、いい嫁もらったなーと満足しているが、妻は日々の不満が蓄積。夫はその不満に気づいていない。そのことがますます妻の心を遠ざける。悪循環そのもの。

 
塔子の場合、片親育ちであることの負い目がすさまじい。その事が彼女を忍耐強く、控えめで、自己主張できない人間にしている。あげく、自分の気持ちをごまかして結婚生活を続けていたのだ。


真は女心に疎いトンチンカンな勘違いイクメンだが、根は善良な人間である。そして彼は、端々で自ら話している通り、塔子を愛している。愛情があるのに、相手を傷つけるのは単純にスキル不足だからだ。スキルは向上させることで状況を改善できる。しかし、そのためにはまず課題を認識する必要がある。コミュニケーションレスとそれによる心的ストレスは目に見えない問題だから難儀だが、手を変え、品を変え、粘り強く伝えるしかない。絶対にあきらめてはいけない。他でもない、自分のために。

 

つまり、塔子にもコミュニケーションレスの原因がある。いちいち我慢せず、素直に真の目の前で、愚痴ったり、泣いたり、怒ったり、主張すれば済む話のような気もする。

真とのシーンでは、たびたび塔子は本音を飲み込んでいる。それはなぜか。面倒くさいから。不快感を覚えて、これ以上この人と話したくない、と白けている。しかし、そこで流してはいけないのだ。拙くてもいい、面倒がられてもいい。自分は不快である、傷ついた、と主張するべきだ。

 

鞍田氏の出現によって塔子は自我を急速に目覚めさせるが、鞍田氏が現れなくても塔子が爆発することは時間の問題だったように思う。

 

でも爆発は、自分だけでなく、周囲(特に子供)にも怪我を負わせる。

子供を大事に思えばこそ、自分を大事にするべきだ。